ロンドンに来たら、なんとしても行かなくてはならぬ場所があります。そう、なにも私だって中華食べるばかりが目的ってわけじゃありません。
ロンドン、というか英語圏に来たら寄らねばならないところ……それはもちろん大好きなホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)。
ロンドンのホールフーズ・マーケットはケンジントン店が断然大きくて楽しいですが、歩いていたらピカデリーサーカス店に遭遇したのでもちろん入ってみました。
Whole Foods Market(Piccadelly Circus)
20 Glasshouse Street, London, W1B 5AR
ロンドンには他にもプラネットオーガニックとかナチュラルキッチンとか楽しいオーガニックのお店がありますが、私はいかんせんホールフーズ・マーケットのファンなのです。ニューヨークで初めてその存在を知り、あまりに楽しくて滞在中は毎日通っていたほど。
パリにはホールフーズ・マーケットほどの大きなオーガニック・スーパーはないし、当然品揃えも違う。パリはヨーロッパの商品が中心だし、ホールフーズマーケットはアメリカやオーストラリアの商品も揃っていて心浮き立ちます。
フランスのオーガニック・スーパーは、数は多いものの、ちょっと無頼者って感じの印象があるんですよね……こういう風に、入ってゆっくりできるオーガニック・スーパーがあればいいのに。
と、ゆっくり買い物を楽しんでいた私の目の前に突如現れたもの、それは……
プ、プロテイン……!
おお神よ、御存じだったのですか私が最近プロテインを摂取しようとネット検索していたことを……!
そんな私をセール中のプロテインに導いて下さったのですね!
と、おもむろに908gのホエイプロテインを抱えレジへ直行しようとしたそのとき、私の頭の中で高らかに鳴り響いた警鐘……
「ここ、近所のスーパーじゃないよ!」
天使だ、天使が私を愚かな衝動から救ってくれたのである。
いけないいけない、いやいや908gて……とホエイプロテインを元に戻し、紅茶でも見ようと移動しかけた、と、そのとき!
ダブルトラップ……!!
ここはもはや安全地帯ではない。そう判断した私はホールフーズ・マーケットから尻尾を巻いて逃げだしたのであった。
こうしてピカデリーサーカス店からは命からがら逃げ帰った私ですが、翌朝は何事もなかったようにケンジントン店へいそいそと出かけました。やはりケンジントン店に限るな、ダメだピカデリーサーカス店は危険すぎて!などと思いながら。
ケンジントン店はとてもわかりやすい場所にあり、地下鉄ハイストリート・ケンジントン駅を出てすぐ右にまっすぐ進めば良いだけです。
ただ今回はこのケンジントン店のわりと近所に宿があったため、地下鉄は使いませんでした。
Whole Foods Market (Kensington)
63-97 Kensington High Street, The Barkers Building London
フランスのオーガニック・スーパーに比べ、アメリカやイギリスのオーガニック・スーパーはどこもおしゃれで清潔感あふれているのが羨ましい。サラダ・バーでランチを買えるし、デリが併設されていたりして、誰でもウェルカムなのだ、という開かれたムードがそこにはあります。
甘いパンも売っている。シナモンロールやドーナツはフランスのパン屋ではほとんど見ません。
抹茶味があるなんて!
このマフィンが……マフィンがとてもおいしそうな色をしていて、旅行中だから、などと言って、どうしても誘惑に抗えずひとつ買ってしまいました。
バナナウォールナッツマフィンを買いました。もうひとつビーガン用のバナナマフィンがあったけれど、ウォールナッツ入りの方がすばらしい色をしていました。
これが……すっごくおいしくてびっくりしてしまいました。なにがびっくりって、私はナッツが嫌いなのに美容目的で食べているのだけど、とくにクルミだけは大嫌いで美容目的でも食べないほどなのです。それが、このマフィンはほんとうにおいしかった。文句なしにベスト・オブ・マフィンでした。
そして一番の目的である化粧品を見るため地下へ降りて行き、まずはスパイスやナッツや豆などをしげしげと眺めます。
そして化粧品の中でもとくに主要目的であった、ジュリークのハンドクリームを探したのだけど、……ない。
どどどどどうしてジュリークが!
私、動揺を隠しきれませんでした。ホールフーズ・マーケットはジュリークの取り扱いをやめてしまったというのか!あれほどの人気ブランドなのに。
けっこうショックだったのですが、気を取り直してジョンマスターオーガニックを眺めます。
ジョンマスターのリップクリームはとても良い香りだしさらっとしていて使いやすいけれど、柔らかいからあっと言う間に減ってしまう。
HURRAW!も好きなので買おうか迷う。
しかしここはなんといっても日本で販売終了したというバーツビーツのティンテッドリップバームを買わなければいけない。なぜ販売終了したのだろう、良い商品なのにな……
つい私はリップ関係を見てしまう。
ゆっくりしていたら意外に時間がなくなってしまったのであせりつつ、なにやら賞をとっているらしいこの商品が気になりました。
そして真っ赤でUVカットもついている!素晴らしい!と気に入ったこちらの商品をお買い上げ。
リップ関係ばかり選び、ほんとうに友人との待ち合わせの時間が迫っていたので、一階のレジに急ぎました。
すると……
……!!!
「お、お前は……たしかあのときの爆発で……!」
「おそらく全員がそう思ったであろう。私はあの爆発にまきこまれたと……しかしあの部屋に地下道へと通じる抜け道があることは、この私しか知らなかったことだ」
「なんだと……!」
動悸が速くなるのを感じる……
しかし一度切り抜けた罠にひっかかるような私ではありません。
毅然と……き、毅然と!908gのホエイプロテインなどには背を向けてレジへと向かうのです。
人は皆、弱い存在。
でも自らの弱さと真剣に向き合ったとき、そのとき初めてほんとうに強くなれるのです。
だから目を逸らさない!目を……
目……
に、二度目のダブルトラップ!
……けれどいかに敵がトラップを重ねてこようとも、おめおめと引っかかるような私ではありません。
常識的に考えてみましょう。私はこれからまたユーロスターで国境を越えなければならないのです。パリに帰れば近所のスーパーでいくらでも買えるものを、旅行による興奮が鼻息を荒くさせるからと言って、なぜわざわざロンドンくんだりまで来て買わなければいけないのでしょう?そんなこと、子供だってわかることです。
そもそもハガキやアクセサリーのようなちいさなものならばともかく、1kg近いものを荷物に加えるなど、愚かとしか言いようがありません。旅行において荷物の問題は常に頭の隅に据え置き、忘れるべきではありません。
そして、旅において一番大事なものっていったいなんでしょう?
それは体験、エクスペリエンスです。普段と違う街並み、普段会えない人々、自分が普段目にしない風景の中で、人びとはどのように暮らしているのか、彼らを取り囲む環境とはどのようなものなのか。また、言うまでもなくそこでしか目にすることのできない自然や、芸術の中に身を置くこと。それらのエクスペリエンスこそ我々がほんとうに欲しているもの、貪欲に吸収し、心の深いところで理解されるべきものなのです。
決して物欲、それもこんな無意味でわけのわからない類の物欲を満たすために我々は旅をするのではありません。
そのエクスペリエンスはある時には的確な言葉や映像やその他あらゆる表現手段に変換され広がってゆき、またある時にはどんなものにも、言葉にさえされないまま、まるで夜の間に降り積もった新雪のようにその人を柔らかく包み、人間としての厚みとなっていくのでしょう。
そう、エクスペリエンスは……
エクスペリエンスは……
エクス……