なぜ? 日本にだけ存在する「化粧は身だしなみ・マナー」問題

マーク・ジェイコブズの口紅型ペンメンタル

私はメイクに関してはわりと弱いというか、気が向いたときにしかやってこなかったので技術的にも情報的にもあまり記事にできるようなものではありません。ただ断っておきますが、「もののけ姫メイク」に関してだけは誰よりも頻繁に衝動に駆られ実行しているため、ハイクオリティーでアーティスティックなアレをお届けすることができると自負しております。

清潔なだけじゃダメ? どうしてメイクが身だしなみなのか

「気が向いたときにしかやってこなかった」というのは日本にいるときもそういうスタンスでいたということです。メイク水準が定食並みに日替わりな私に対し、苦笑していた人も多かったのかもしれません。しかし私は「化粧はマナー」が社会常識とされていることをずっと奇妙に感じていました。私にとって化粧というのは単純に個人的な喜びであるべきで、いったいどうしてマナーとつながるのか、どうしても理解できなかったのです。メイクが好きな人は毎日する、好きじゃなかったり時間のない人はしなくていい、じゃどうしてダメなんだろう? とわりと真剣に考えてきました。

マーク・ジェイコブズの口紅型ペン

私にとって身だしなみとは、「毎日入浴し清潔にする」「髪を健康に保ち整える」「爪が汚れてない」「アイロンのかかったシャツ」「靴を磨く」みたいなことで、メイクはそのラインを「超えていってる」と思うのです。メイクと男性が歯を磨いたり髭を剃ることを同じようにとらえる人もいますが、これはまったく別の話です。そもそも時間もお金も、かかるコストが全然ちがう。

メイク自体は5分で済んでも、顔を洗う→化粧水→乾かす→美容液をつける→乾かすなんてやってたら優に30分は時間取らないといけないわけで、小さいお子さんがいたり、夫がちょっと小うるさいというような人には大変な労力に思えます。それに「化粧はマナー」論争では「顔色が悪いと失礼」といわれることも多いですが、毎日化粧をするとよほど肌の強い人でないと顔色が悪くなります。特に唇と瞼は色素が沈着しやすいので黒ずみがちです。

ちなみに私の日常的な化粧はまずなによりもこの世の悪を凝縮した光線である「紫外線」をカットするためのものなので、ミネラルファンデかミネラルサンスクリーンパウダー、ミネラルチーク、紫外線カットつきリップクリームがベースになっています。日本でもこの3点セットだけは毎日塗っていたので、私が「きちんと化粧をしてない」と批判されたときはこれでは不十分と判断されたということだし、仮にこの3点セットを塗っていなければ批判はさらに多かったのかもしれません。

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なぜそんなに「他人の口紅」が気になるのか

たとえば、会社の規定でどうしても決まってるようなことはあると思います。CHANELの化粧カウンターで美容部員がすっぴんだったらまずいというのは分かるし、あとCAも厳しいところが多いようですがこれには「乗務員が顔色を悪くしていると乗客に不安を与えてしまう」と聞いてハアなるほどなと思ったこともあります(ただ「容姿端麗であるべき」という基準から化粧をしなければいけないとする会社も多いようで、欧米系の会社だとファンデも塗ってない大柄なCAがダイナミックな接客をしてくれたりしますが、それに対して個人的にはむしろ安心をおぼえます。頼りがいがあるというか)。

しかし日本では接客業どころか内勤の女性にまでも化粧をすることを「思いやり」「マナー」と強制している気がして、「思いやり」と「マナー」が言葉のわりにすごく押しの強い使われ方をしているなと感じるのです(たとえば有給を使う人に「思いやりがない」といったり)。私の友人は都内で会社員をしているんですが、口紅だけは取れやすいので会社に着いてから塗ることにしてるらしく、ある日通勤途中の彼女を見かけた同僚から「通勤中は口紅を塗らないなんて女としても社会人としてもマナーがなっていない。サボってる」と注意を受けたそうです。1億総監視社会か。

人によっては「すっぴんは基本見苦しいので、そんな顔で人前に出て他人に不快感を与えるなんて社会人としてのマナーに違反している」という人もいます。私にしてみれば、他人のただ化粧をしていない生まれ持った顔を「見苦しい」などという人のほうがよほど社会人としてのマナーに違反しているように思えます。また、もし他人が素顔でいるだけでそれほどの不快感を与えられるというのであれば、そんな脆弱なメンタルのまま社会にでてこられるほうがずっと迷惑きわまりないとも思います。メンタルというのは基本的に鍛えることが可能なので、私としては「すべてのクレームに答える努力をする社会」と「全員がメンタルを鍛える努力をする社会」では後者の方が未来に希望が持てるのではないかと思っています。すべてのクレームに答えてきたからこそ今の便利な日本社会があるのかもしれません。しかし一方で何かのアラを探しクレームをつけるという行為には終わりがないのです。

「化粧はマナー」、ほかに存在する国はあるの?

ところで私の知る限り、この「化粧はマナー」とされる風潮は日本にしか存在しません。確かめてないけれどありそうだなと思うのは韓国くらいでしょうか。あと少数民族の中には化粧をしなければいけないとされる文化もあるかもしれませんが、その場合は化粧本来の目的である「魔除け」を期待してる可能性が高いですね。

アジアでも中国はそういった文化はないようで、保険会社の営業職だけれど化粧を1回もしたことがないという女性に出会ったこともあります(成績は大変よいそう)。ましてやヨーロッパで「化粧はマナー」などといいだしたらとんでもないことになるんじゃないかと思い、ためしに「女性が職場に化粧をせずに行くのはマナー違反なの?」と直球でまわりの人に聞いてみたことがあります。アメリカ、コロンビア、メキシコ、ボリビア、イギリス、ポルトガル、イラン、中国、インド、そしてフランス人がいた場で聞いたんですが、見事に全員が

「お前はいったい何をいっているんだ」

という顔をしてきたので非常に辛いひと時を過ごしました。「仕事と化粧が関係あるのか?」「じゃあ男はどうすりゃいいんだよ」「娼婦とか男性相手の職業なら必要だろうけど普通はいらないでしょ」といわれ、私は山羊のチーズを食べ続けました。山羊のチーズそんなに好きじゃないんですけど食べ続けました。下手なことをいって「やっぱり日本人女性は抑圧されて……」的なことをいわれるのはヤなんです私は、イヤなんです。

フランスの女性上司は何だかすっぴんが多い

この「化粧はマナー」論争が日本で繰り広げられるとき、「したくなければしないでいんじゃない」という人もいます。その心は、「でも化粧をする人のほうがクライアントや上司に感じよく思われるのが現実だけど、それでもいいんならね」というものです。もし化粧をしなければ出世に響くというのであれば、たしかにそれは大変な問題です。

ヨーロッパで会社勤めする人に、

「上の立場の女性ほどすっぴんで、地味な人が多い」

と言われたことがあるのですが、これは本当だなと思います。結局ヨーロッパで職場に化粧をしていかなければいけないかどうかというのは、考えるまでもなく「好きにしていい」というのが正解です。化粧をしようがしまいが関係ないし、エイミー・ワインハウスのようなメイクをしている人もたくさんいますが何もいわれません。私の近所のスーパーモノプリでレジを打ってる黒人女性は衣装に合わせてアイラインがターコイズブルーになったりゴールドになったりします。頭にぐるぐる巻いた布には、ラインストーンで光るワニやオウムを模った何か(30センチ大)が飾られています。単純に「ちゃんと仕事をしていればよい」のです。

その「好きにしていい」メイク事情の中で、上の立場の女性ほどすっぴん率が高いのは(もちろんメイクが濃い上司もいます)、まず女性がまったく職場の花としての役割を期待されていないということがあるでしょう。日本に比べて女性の上司が多いので必然的にモデルも増えるわけですが、高い役職に就く女性の多くは、「なんだかよくわからないけど好きにしている」雰囲気の人が多い気がします。すっぴんで口ひげが濃く、靴もペタンコ、スラックスとシンプルなセーター、髪も自分で切ったのではないか、でも唐突にでっかい派手なイヤリングを装着、みたいな感じ。

彼女たちはフランスの熾烈な学歴社会を勝ち抜いてきた有能な女性たちです。働かないイメージのあるフランスですが、1部のエリートたちは特にバカンスも取らず長時間労働だったりもします。私はフランスで出世する女性に地味な人が多いのは、「見た目に割くエネルギーを別のところに集中させることができた」、または「別のところに集中させたいと思ってきた人たち」だからなのではと思います。1日30分メイクに時間を当てるとしたら5日間で2時間半。それだけ仕事や勉強に当てればやはり結果に差ができるのではないか。そして社会からもその能力が「あてにされてきた」からこそ見た目が地味でも、あるいはエイミー・ワインハウス風メイクであっても、関係なく評価されてきたのだと思います。

現在、日本人女性の「見た目に気を遣う力」は間違いなく世界でトップです。日本に帰ると本当に道を歩いてるすべての女性がきれいで感動します。そして私もきれいな女性がとても好きだし、自分でも美容ごとが好きなわけです。でももっと別のことに時間を使いたいと思う女性たちが、誰にも批判されることなく選択できる社会でもあってほしい。そうすればもっと個々の能力を発揮できる女性が増えてくるのではないでしょうか。清潔にしている人がそれ以上求められるのは行き過ぎなのではないか、本当にメイクは身だしなみなのか、もう1度考えられるといいなと思うわけです。

それにしても、日本にしか存在しないとなると、この「化粧はマナー」がどこからやってきたのかがとても気になります。調べてみたいですね。

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