私はせっかくのヨーロッパなのに電車旅行ってあまりしたことがなく、かの有名なユーロスターにさえ乗ったことがなくて、ロンドンへ行くときは必ず飛行機でした。
でもこのたび、友人と初めてユーロスターへでロンドンへ行くことに。ひゃー。
ユーロスターはパリの北駅(Gare de Nord)から出ています。空港へわざわざ行くことに比べれば、交通費も移動時間も雲泥の差!こんな楽に外国行けちゃっていいの!
……という気持ちの緩みがもたらしたものに違いない、と今振り返ってみれば思うのですが……旅行者の方であればまずこんなドジ踏まないと思いますが……いえパリ在住の方でも踏まないと思いますが……
私、パスポート忘れてしまいました。
ええ、かの有名な、あのパスポートです。
老いも若きも赤ん坊でさえ外国に行くときは必要な、身分証の重要度で言ったらどんな場合もベスト3には入るであろうことで有名な、地球にとっての太陽くらい海外旅行界では重要な、あの、パスポートです。
幸いメトロの中ですぐ気がついて、急いで家に戻り、走りに走ってギリギリ!ギリギリ間に合いました。
なんていうんですかね……イギリスも、ヨーロッパなんでしょ?みたいな、いえヨーロッパ旅行だって一応パスポート持って行くのですが(なぜか必要なときと不要なときがある)、アレだ、「汽車だから」みたいな勝手にイージーなイメージを膨らませてしまったのが原因と言えるかもしれませんね。汽車だからって、飛ばないからって、油断してはいけなかったのです。
ユーロスターでフランスからイギリスに渡るときは、入国カードさえも必要なのです。キビシイ。駅に着くと、待っていてくれた友人が「書けるとこだけ書いといたから!」と入国カードを手渡してくれて、ゼイゼイ言いながら出国し入国しました。
要は入国を30分前までにしなければいけないということなのですが、これはそこから荷物検査があり、ユーロスターまで歩く距離を考えると30分必要だから、ということだそうです。
私の場合、出国は簡単だったのですが、入国が異様に厳しかったです(フランスは緩いがイギリスは厳しいということ?)。入国審査のおばちゃんはずっと険しい顔で眉間にシワを寄せていました。
「あなたなんのためにイギリス行くの?」
「観光です!」
「何日に帰ってくるのよ?」
「三日後です!」
「何月何日って、日付を言いなさい!」
「は、はい!ええと……」
「帰りの切符見せなさい!」
帰りの切符は友人が持っていたので急いで呼びとめ(友人がもう行ってしまっていたら入国出来なかったかも)、なんとか無事ユーロスターに乗れることになりました。
汽車だからってね!みなさん汽車だからってね!なめちゃいけなかったんです……!
荷物検査もパスすると、なんだかミニ空港みたいな雰囲気。
フランス土産を売ってるちいさいお店やカフェがあって、待合席が並び……
私は空港の雰囲気が何ともいえず好きなので、すでに一日の体力の7割方を消耗していたにも関わらず、素晴らしい旅の始まり気分を味わうことが出来ました。
初めてのユーロスターに、つい興奮してしまう。
はからずも4分の3番線っぽいところから出発(3、4番線ということだと思うけど)。
ユーロスターの椅子はとても快適で、日本の新幹線よりも良いかもしれない。
とくに頭を預けて眠る用の、支え(座席の頭部分が上から見ると凹型になっている)があるのがとても嬉しい。ちょっとしたことだけど、飛行機の座席にこれがあればかなり快適なのに、と思いました。
ところで私、ちょっと成人としてはあるまじき子供じみた考えを持っていることがたまに(しょっちゅう)あるのですが、このたびユーロスターに乗ってみるまで、こんな妄想をしていた節があるんです。
「ユーロスターでフランスからイギリスに渡るときは、水中に潜ってさながら水族館の中を進むような光景を拝めるんじゃないか」
……って。
もうほんとうにドラえもんの映画かってくらい非現実的な妄想なんですが、ユーロスターの座席に身を沈めるまで、本気で少しそう思っていました。でも実際ユーロスターに乗って椅子に座った途端、ふっと現実的な頭に切り替わりました。
「いやいや、そんなわけないじゃん」
以前、きちんとした社会人である成人男性に
「俺九州って行ったことないんだけど、新幹線で山口から福岡に渡るときって魚とか見られんのかな?」
と言われて仰天したことがあったのですが、私のユーロスターに対する妄想もまるっきり同じものであったことにむしろ今回仰天致しました。自分にびっくりした!
まあ好意的に考えるならば、この「海を渡る列車に対する水族館妄想」は、太古から人間のDNAに刻まれている本能に根付いた欲望である……と言えるのかもしれないなんてことはまあないでしょう!アホでした!
初めてのユーロスターで興奮してはいたのだけど、朝も早くてすごく眠かったのでぐうぐう眠って、二時間半ほどで到着。
エルメス御一行様が来られるようですね。
ところで、北駅でイギリスに入国する際、私が遅刻しそうだったので友人が入国カードを書けるところは書いておいてくれたわけですが、カードを受け取って、あまりに気が動転していたので私はそのまま何も大事なところを追加で記入せずに入国審査の女性に渡してしまったんですよね。
そのあと友人が
「え!パスポート番号も書かなかったの?大丈夫?」
と心配してくれて、私は一気に不安になりました。
あの入国カードはどうするんだろう?ユーロスターに積んでイギリス側に運ぶのか、それとも入国審査の女性か、事務員がデータを打ち込むのか……?もしそうなら、パスポート番号を書いてないことはあとあと問題にならないのか。
でもデータを打ち込むなんて面倒なことはやらなさそうだし、もしイギリス側にカードを運ぶのなら、現物のカードがあるのでその場でパスポート番号を伝えればいいだけかもしれない……と明るく考えることにしました。
結局、その後何の問題も起きなかったので、入国カードは入国審査の人が手早く審査できるようにするために、その場で使うだけのものなのだろうと友人と結論しました。だから私の入国審査は友人に比べて厳しかったのかもしれない。
到着はセントパンクラス駅(St Pancras station)です。
美しいなーこの駅、と私はつい思ってしまうのですが、ロンドン在住の人からすれば「?」って感じなんでしょうか。もしロンドン在住の人がパリの北駅を「この駅素敵!美しい!」って言ってたら私も「?」と思ってしまうだろうと思うんですが、あきらかに北駅よりはこちらの方が美しいと思います。北駅はちょっと治安の面でも不安ですしね……
この色の車を選択できる人生について5秒ほど考える。
私はとくにハリーポッターファンというわけではないのだけど、すぐ隣がキングス・クロス駅(King’s Cross station)ということで、それがあまりにも目と鼻の先だったもので、友人にお願いしてちょっと足を運ぶことにしました。
友人はとてもお腹が空いていたらしく、プレタモンジェという店(フランス語だからフランス資本なんだろうか……と思ったけれど、パリで一度も目にしたことはないし、立派なイギリスのチェーン店らしいです)でサンドイッチを買っていた。
(※追記:と、思っていたらパリにバカスカありました!勘違い失礼!)
その間に私はあの例の、ハリーという少年が壁抜けを行う9と4分の3番線を探しました。
しかし現在では実際のプラットホームではなく、こういう風に撮影をしてくれるようなセットが改札外にあるのみです。
たしかにプラットホームに人だかりが出来たら迷惑千万でしょうから、仕方がありません。
このようにマフラーを巻き、カートを押す風を装い、助手の女の人がマフラーをファッと風になびくふうにはためかせるとともに、被写体(ハリー役)がジャンプしその瞬間をすかさずカメラマンが撮影、という連携プレイが求められているようです。
このカメラマンは大変明るく、言葉巧みで雰囲気作りも上手く、「ここはじつは9と4分の3番線ではなくぜんぜん関係ない場所」という、思い出すとふと真顔になってしまいそうな事実を忘れさせてくれます。
カメラマンも、被写体のファンの子たちもとても楽しそうです。ただ「マフラーをファッとさせる」役の女性は終始何かを持て余している風情だったのが印象的でした。
私、ちょっと彼女の仕事について想像してみたのですが、一日中「マフラーをファッとさせる」ことだけしなければいけないとしたら、それが自分の仕事だとしたら、何かを持て余すというか、消化不良な部分があるかもしれません。「私はマフラーをファッとさせるだけの女じゃない」というような、湧き上がる職業的情熱のようなもの、というかね。彼女にも少し台詞なりなんなりあると、もっと連携プレイ感が増すかもしれない……って、ものすごい余計なお世話ですね!
まあそんなこんなで、とりあえず近年急速に「イギリスと言えば~」の代名詞に浮上したハリーポッターについてはこれで満足し(短い旅なのでね……)、思ったよりキュウキュウなスケジュールだったロンドン旅行がスタートしました。