私はときどき、もしかして途中まで狼に育てられたんじゃないかってくらいとんでもない無知を晒すことがあります。
もうその無知のとんでもなさといったら
「え、まさかこれを知らない人が世の中にいると思わなかった!」
と人様から言われるくらいのものなのですが、今回またロンドンの街中でその無知、晒してしまったかもしれません。
街を観光していると突然友人が
「あれなんの建物だろう?あ、リバティって書いてない?あれリバティの本店なのかな?」
なんて言ったわけです。その友人のあまりの「あのリバティ」的な物言いに、3秒くらい迷いましたよね、このまま斜め45度右上見上げて口笛でも吹きながら知ってるふりしようかなって。
だって友人の「あのリバティ」感がすごいわけです。それはもうボクシング界における「あのモハメド・アリ」くらいの勢いで「あのリバティ」なわけです。私も知ったふりしようかどうか迷うってもんです。
そこで私、「ん」って言いました。
たった一文字ですが、こんなに肯定も否定もしない完璧に中途半端な返事は他にありません。
切り抜けた……って思いましたよね、一瞬。
ところが友人は、「入ってみよう」って言い始めました。その友人の「あのリバティなんだから当然入りましょう」といった目の輝きに、ますます私は「こりゃあ知らないで通るアレじゃあないんだな」と確信を強めていったのです。
これはそんな狼に育てられたかもしれない世間知らずな私とリバティが出会い、そして交流を深めていく物語である……!
店に入ると、そこには文房具、ノートやレターセットや筆記用具、それに可愛らしい小物なんかが並んでいました。それらのすべてが個人的にツボだったので、ここでちょっとお土産買って行こうかなとしばし真剣に選んでしまいました。なんだか日本人女性に好まれそうなデザインばかりです。
そしてホッとしましたよね、ああなんだ、リバティって文房具屋だったんだ……って。
それから奥の方へ行くと、柔らかいけれど鮮やかな色使いの花柄の布やスカーフ、それ系統の柄の洋服を着た店員さんがいらっしゃいました。
この空間は天井が吹き抜けになっていてとても気持ちよく、でもちょっとヨーロッパの図書館を思わせるようなアンティークな雰囲気が素敵でした。
私思いました。リバティって文房具と、スカーフ売ってるところなんだ……って。
建物はたしか5階建てで、このあと私たちは木造のエレベーターで最上階まで上がって行きました。そこには家具だとか、インテリア用品だけでなく東洋風の一般家庭には必要のなさそうな置物だとか、食器、ろうそくなど、様々なものが陳列してありました。
そして友人はそれらをじっくりと、時間を掛けて興味深そうに眺めておりました。
私、思いましたよね、「たぶん興味あるふりしておいた方が違いの分かる人間に見られる」……って。
いずれにしても私は吹き抜けの建物って好きなので、内部を歩いているだけでずいぶんと楽しめました。
街中にあるし、文房具とスカーフと置物に興味がなくてもこのリバティ本店には寄る価値があるかもしれません。
ところでがらっと雰囲気変わりますが、吹き抜けと言えば、つい寄らずにはおられなかったm&m’sワールド。
私はm&m’sというのがまさかこんなワールドを作られちゃうほどのビッグブランドだということも知らなかったので、そういう意味でもびっくりしました。ただのチョコレート菓子のパッケージ用にデザインされたキャラクターではなかったのか!
私にとっての旅行は、こうしてさまざまなものに触れて自分の無知っぷりを解消していくという意味でも重要なのかもしれない。
m&m’sといえばアメリカのブランドだと思いますが、きちんとロンドンアピールしているので一瞬「あれ、m&m’sってイギリスブランドだっけ?」と思ったくらいです。
そしてつい何か買わずにはいられなくて、お土産を選んでレジに並ぶとものすごくウェルカムな雰囲気です。
「ハロー!m&m’sワールドは初めてですか?」
「はい!」
「どう?楽しめたかしら?」
「ええ、すごく!」
「よかった!どこから来たの?」
この「どこから来たの?」という質問は要するに、「どこの国出身?」という質問でもあるので、私はこの場合「日本から来ました!」と意気揚々と答えなければいけません。しかしパリで「回転寿司高いな……」と指をくわえる日々を送り、ユーロスターで2時間半でひょこっとやって来てしまった私は、そう、飛行機さえ乗らなかった私は、あきらかにこのとき「黄金の国ジパングからやってきました!11時間のフライトでね!」……というテンションではないわけですよ。それでつい、「出発地点=フランス」という考えから「フランス」などとバカげた返答をしてしまったのです……
「フランス」
私がそう口にした途端、なんてことだろう、レジのお姉さんのはじけるような笑顔が一瞬でほんとうにはじけて萎んでしまった。
仕方がありません、どう考えてもフライト11時間は固いであろうルックスの客が、あろうことか電車で2時間半の隣国からやって来たと言い張るのです。
お姉さんとしてはおそらく
「日本からやってきました!」
「ワ―オ!はるばるロンドンへようこそ!楽しんでね!」
というフライト11時間に相当するテンションの会話を想定していたはずなのに……
私はお姉さんの萎んだテンションにけっこうショックを受け、それは彼女のテンションが萎んだこと自体ではなく、自分のサービス精神のなさ、機転の利かなさというものに対してだったのですが……
これを機にもっと、ナイス受け答え!な人間になれるよう努力したいな、そんなことを思ったm&m’sワールド訪問でした。
で……リバティって結局、なんだったんですかね。
総合力のある雑貨屋、という私の理解で合ってるんでしょうか。
LIBERTY リバティ
210-220 Regent Street, Soho, London W1B 5AH