ある日友人夫婦から電話が掛かって来て
ひさしぶりだなーと思いながら出たら
「明後日パリを発つ」とのこと。
え―待って待ってなにそれ!
そういうのって一か月前くらいに言ってよ!
もっと思い出アルバム作ったり色紙書いたり
鼻歌歌いながらプレゼント交換とかしたいよ!
と、電話口で駄々をこねましたが
急遽決まったことなので仕方がないと諭され
私もすぐ頭を切り替え夕食をともにすべく店を予約しました。
それがここ、サンラザールにあるcarnet de bord 小四川酒家。
美味しいよーと友人から聞いて
一度行ってみたらあまりに人が多かったので断念した店。
今日こそ、いや今日だからこそ行くべき店。
友人夫婦は旦那さんがカンボジア出身で奥さんが中国の四川出身。
奥さんの激辛耐久度はもはや同じ人間とは思えないほどで
辛いものが好きなのではなく「辛い物しか食べない」と言いきった彼女。
この店なら喜んでくれるだろうか……
と思うのだけど、私だって入るのは初めてだからメニューをそっと開きます。
「あ、これこれ、これは絶対頼まなくちゃ!」
と奥さんが言った、こちらのド派手な前菜からスタート。
タライみたいな器に辛いタレがたっぷりと溜まり
砂肝みたいなものやウズラや野菜が刺してある串は
輪っかになった赤いパプリカでひとまとめにしてあります。
この見た目のエンターテイメント性もさながら、味も美味しい。
ひんやりして、夏向き。
この店を教えてくれた友人は
「辛さレベルを事前に訊かれるから
一番低いレベルにすれば、それが私達が美味しく食べられるレベル」
と言っていたので構えていたのですが
お店の人はレベルのことなんてまったく訊ねてくれませんでした。
全員アジア人だったし、奥さんが中国語で注文していたので
もしかしたら自動的にレベルを設定されたのかもしれません。
この串はかなり辛かったから、結構高レベルだったのかも。
それからメインとして頼んだこの鍋ごと出てくる炒め物。
すごく美味しくて全員無言になりました。
辛いのだけどちょっと甘辛な味付けでもあり
ジャガイモが特に美味しくて争奪戦に。
ただ唐辛子も一緒に炒めてあるので
うっかり食べないように注意を払わなければいけません。
あ、写真は、前菜の串の皿を強制的に下げられそうになったので
残ってた串を鍋の上に乗せてあります、失礼。
そして奥さんの激辛好きばかりに言及しましたが
実は旦那さんは激辛がちょっと苦手なので
旦那さん用にこちらのあまり辛くないキャベツ鍋も注文。
うっかりただのキャベツだと思っていると
ちょっとハッとしてしまうぐらい美味しくて何度も手が伸びます。
キャベツは胸が大きくなるとも言われますから
このように鍋一杯食べられるのはうれしいことです。
ところで旦那さんが激辛苦手なのに四川料理選ぶなんて
ちょっと配慮が足りないのでは、と思われるかもしれませんが
「私と結婚したのだから、彼はもっと辛さに慣れなければいけない
結婚とはそういうことも含めての選択である」
というのが奥さんの主張であり
旦那さんも受け入れるべく日々精進を重ねているので
彼らに店選びをまかせてもいずれ激辛料理を選ぶのです。
激辛って、愛なんですね!
以前記事を書いた11区の四川料理店に比べると
一品一品の量がかなり多いため(2人で一品、くらい)
こちらの店には大勢で行かれるのが良いかと思われます。
どちらの店も美味しくて今とてもお気に入りです。
パリでハズレの中華には山ほど当たりましたが
「四川料理店」に関しては今のところハズレなし!
専門性を前面に出してくるところはそれなりに自信あってのこと
ということでしょうか。
アジア料理、と銘打って寿司やらラーメンやらYAKITORIやら
そんなのが出てくる店はハズレが多いみたいに。
店を出た後は、私が靴ずれで足が痛かったためあまり遠くに行けず
サンラザール駅すぐ近くのカフェに入りました。
私はこりずにモヒートを頼み
ああ、あなた(奥さん)が明後日発つなんて信じられない!
と何度も彼女に言いました。
パリで弁護士になるための研修を受けていた彼女は
とても賢くておもしろくて
いつも群れずに一人静かに座り
そんな彼女が実は若くして結婚していて
近い将来旦那さんの故郷に帰るかもしれないと聞いたのは
出会ってまだすぐのころでした。
旦那さんは明るくてお調子者で
私に軽口ばかり叩くので賢い妻によく叱られるのだけど
2人とも一度仲良くなるととことん良くしてくれる
義理人情に厚い夫婦でした。
私は「忙しい」って口にするのが好きじゃないから
なるべく言わないようにしているのだけどそれでも
最近はそう言わなければどうにもならないような状況だったので
彼らの誘いを「忙しくて」と何度か断ってしまっていて
そしたらもう明後日彼らは旅立ってしまうのです!
忙しくても仲の良い人たちとは定期的に会っておかなくちゃ
と私はこの夜モヒートでふらふらしながら決意しました。
とくにこんなパリみたいな
いろんな人がやって来ては、すぐに去っていってしまう街では。
彼ら夫婦はカンボジアに土地を買い
そこにホテルを建設して夫婦で経営するのだそうですが
その土地購入の関係でこんな急にパリを発つことになったそう。
サンラザール駅で私達は固く抱き合い
彼女は
「ねえ、いつかカンボジアに来るときは、手ぶらで来てね。
暑いから着替えはいるけど、その他はほんとうになにもいらないの。
それで私達のホテルに泊まって、プールで泳いで過ごすのよ、いい?
そうやっていつでも再会して、一緒に過ごせるの。
大丈夫よ、会おうと思ったらいつでも会えるんだから!」
と言いました。
強い言葉を放つ彼女の身体はとてもとても華奢でちいさく
私、やっぱり、ちょっと淋しかったです、サンラザールで。
carnet de bord 小四川酒家
11 Rue de Budapest, 75009 Paris
TEL:183564734
メトロ:3,12,13,14番線 Saint-Lazare