陣取りゲームに負けた女たち~フランスと日本の不貞のちがいとは?~

メンタル

バレンタインデーですね!ヨーロッパのなにがいいってむしろチョコレートもらって食べられ……いや、砂糖断ちだった断ってるんだった――

ところでパリ市からはバレンタインデーを控え、市民のみなさんにこんなお知らせが届きました。

 

バレンタインデー用にブーケを買うと

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愛人のぶんも忘れず買っときましょうネ!  

まさか市がこんな……

不倫で女性だけがダメージ=性差別なのか?

年が明けてからこっちなにかと不倫騒動でざわついている日本を思えばとんでもないことです。

とくに今回のベッキーさんの騒動は、フランスとイギリスでほぼ同じ論調で報じられました。

つまり

「彼女が不倫によって仕事を失ったのに男性側にはまるで影響がないのはあきらかな性差別である」

ということですね。日本でもこのことは報じられました。

個人的には、これはいつものヨーロッパにありがちな日本解釈をそのまま報道しただけだと思います。ベッキーさんだけが仕事を失ったのは、彼女とゲス氏ではもともとタレントとして期待されていたものが違うというだけです。さらに知名度もまるで違いますよね。ベッキーさんが「不倫してた!」と言われるとお年寄りから子供まで「あのベッキーが?」となるけど、ゲス氏のほうはお年寄りなんてみんな「だれ?」ってぽかんとしてた。

欧米では不倫の制裁を受けないなんてことはないはずです。クリントン元大統領は辞職しなかったと言っても、かの有名な「不適切な関係」は一大政治スキャンダルになり、大統領として品格を疑われたことは間違いありません。あの不倫スキャンダルが彼のキャリアにおいて、あったのとなかったのどっちか良かったかと言ったらもちろんなかったほうがよかったわけです。

タイガー・ウッズだってあのクリーンで育ちの良さそうなイメージを不倫スキャンダルで一気に失ってしまいました。 スポーツ選手はある意味大統領よりも多くの人間の憧れの存在です。さらに“紳士のスポーツ”ゴルフ界のスターだった彼は、にっこりと笑うと大きめの白い歯がむき出しになって、シャイで誠実そうな人柄を想像させました。

おそらく老若男女から好感度抜群であった彼は、あの不倫スキャンダルで一気に失墜してしまいましたよね。 そしてスキャンダル後はかつてのような輝きを失ってしまい、いつもどこか後ろ暗そうな雰囲気を纏っているように見えます。

ただし、タイガー・ウッズの場合はスポンサーのナイキが「我々の関係は不変である」と発言しました。スポンサーがそんな発言ができるというのが欧米社会と日本社会の違いといえば違いですよね。

世間が注目するのは、いつもスターだけです。

しかしフランス人だけは特別有名人の不倫に無関心である

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ただフランスという国はたしかにイギリスやアメリカにくらべると特殊な国かもしれません。 オランドも不倫してたけれどほとんど騒がれなかったし、ミッテランが大統領就任の際に記者に婚外子の存在を指摘されたときの「Et Alors(それで)?」という返答はとても有名です。

政治の能力とプライベートは完全に別物と考えてしまうフランス。日本でもそのイメージはすでに定着しているのではないかと思うのですが、そのついでに定着してしまっている、

「フランスでは男も女もみんな本能のままに浮気し放題」

というちょっと間違ったイメージもあるのではないかと思います。

いつも通り前置きが長くなりましたが、今日は日本とフランスの浮気・不倫に対するメンタリティについてちょっと書いてみたいと思います。

浮気を許すのは日本人だけ?

年明けに、マドレーヌ寺院近くの韓国料理屋で新年会が粛々と取り行われました。

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大皿のチヂミに焼き肉をお腹いっぱい食べてダメ押しの鍋まで頼んで飲み食いしても38ユーロという、パリにしては激安価格に大喜びで胃がふくれあがるほど食べてしまいました。私、幸せです。

このとき、いったいどんな流れだったのか忘れてしまいましたが、目の前にいた海外生活20年のM氏(妻はフランス人)が、「フランス人の女の子は浮気はぜったい許さない」という話を始めました。

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まず、西洋全体に言えることだと思いますが、フランスには交際前の「告白」という習慣はなく、気に入った相手とデートを繰り返し、わりと早い段階で関係を持ちます。そしていわゆる告白的なことが起こるのは、関係がある程度続いたのちのこと。それは半年後であったり、一年後であったり、二年かかったという話も聞きます。もっとかかる人もいるかもしれません。

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日本でだと告白前に関係を持つと「本気でない」と理解されますよね。とくに最近のモテ指南本では「告白前に関係を持たないように」と女性に対して警鐘を鳴らしています。遊ばれちゃうからダメだよ!責任感のある男を選びなよ!ってことです。

つまり日本は

告白→カップル成立→関係を持つ

という順番になりますが、フランスは、

関係を持つ→相手を見定める→告白

という順番になります。もちろん「見定める」あいだにこの人はダメだとな思えば関係は終わります。愛しているのかどうか、じっくり考えなければいけない、ということです。

そして「告白」が行われるまでは、たしかに二人の関係性は不確かです。しかし告白後は男性の愛情表現は考えられないほどストレートで豊かなものになります。まさに私たちがフランス人男性に抱くイメージそのもの。しかし、イメージと違うのは、浮気はタブーであるということです。告白後の彼らはとてもシリアスです。

M氏がこの夜熱く語っていたのは、相手のことがよくわからないうちに告白してしまうから日本の男性は浮気しやすいんだ、ということでした。そしてその男性の浮気の原因は日本人女性にもあるということ。なぜなら日本には、「浮気は男の甲斐性」とか「バレないようにやってくれればいい」とか「浮気を許す度量のあるのがいい女」という風潮があるからだと(ではなぜミッテランは浮気しまくっていたのかってことですがこれはまた別の話だと思うし書き始めたら異常に長くなったので削除しつつ、また今度書きます)。

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「世界中どこを探しても、『バレなければいい』とか『風俗は浮気じゃない』なんて口にするのは日本の女の子だけだよ、フランスの女の子はぜったいに許さない」

私は豚カルビをサンチュに巻いて貪り食いながら、たしかにそれはそうだと思いました。もぐもぐ。

フランスは自由な恋愛の国だから、浮気もし放題、なんてことは決してありません。「私にバレなければ浮気してもいい」なんて発言は自尊心がないとしてあきれるか怒りを覚える女性が大半のはず。女性だけではなく男性も同じ反応かもしれません。

しかしどうして日本には「バレなければ~」「風俗くらい~」と発言してしまう女性がいるんでしょうか?

歌舞伎役者の妻ぶっているのだろうか?

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なぜ彼女たちは「いい女ごっこ」が好きなのか?

私は日本で大学に通っていたとき、いくつかの会社でバイトをしていました。ほとんど雑用係でしたが、飲食店のバイトが苦手だった私にはありがたいものでした。

はじめてバイトした会社は従業員30人くらいの、大きいとはいえない会社でした。そこで事務員をやっていたある20代前半の女性は、ほかの女性従業員にくらべて圧倒的に男性社員から気に入られていました。ルックスで言えばもっとかわいい子はいたけれど、彼女はぶっちぎりでした。

バイト初日に、その彼女は私にこんなことを言いました。

「男は浮気するもんですからね、将来旦那が浮気したとしても、私にバレないようにしてくれればいいんです」

驚いたのは、その台詞は私に向かって放たれたのだけど、就業中で、しかも他の従業員にもばっちり聞こえる環境であったということです。そのときの彼女の顔には「後ろめたさ」でも「自虐」でもなく、「どうです」と言わんばかりの誇りに満ちた表情が浮かんでいました。いわゆるドヤ顔というやつです。

そのとき私は理解したのです。

それまで私は「女遊びは芸の肥やしですから」と口にする芸人の妻なんかは守銭奴かリアリストか頭が足りないかのどれかだろうと考えていました。でもそうではなく「女遊びは芸の肥やし」と口にする自分が粋で賢く美しいと信じて疑わないパターンも多いのだと。「洗脳されている」と言いかえてもいいでしょう。

私のバイト期間が終了するまでの約一ヶ月のあいだ、彼女から同じ台詞を20回は聞いたと思います。彼女はいつでも気持ちよさそうにその台詞を口にしました。そのたびに彼女の直属の上司や同僚の男性は、

「〇〇はほんとうに男をよくわかってる、いい女だな」

と彼女を褒めてあげました。それはもちろん本心でしょう。「浮気は男の甲斐性」だなんて言ってくれる女の子だらけになればこんなに都合のよいことはありません。プロパガンダは何度も繰り返されることで浸透していくのです。芸人の世界は女遊びが当たり前、愛人を笑顔で接待してこそ本妻にふさわしい賢くいい女というような風潮は、調教によって定着したようなものです。子犬がお手をするごとに褒めてやるみたいに。

私がさらに驚いたことは、この会社で出会った彼女と、まったく同じ発言を繰り返す女性は想像以上に多いということです。そのあとも何度も出会ってきた「いい女ごっこ」で頬を紅潮させる彼女らを前にしながら、私はこの洗脳の裏にはもうひとつ別の要素が隠れていることも知りました。彼女たちは自分でも気がつかないままに、ずいぶんと自分を低く見積もっているのです。もちろんそうであるからこそ洗脳しやすいということもあります。

そのとき私がいつも連想してしまうのは、「犯罪を誘発するほうが悪いのか」論争でした。

陣取りゲームに負けるとモラルは薄れていく

たとえば日本人はよく外国人から「犯罪に対する備えが足りない」と言われますよね。

日本ではカフェでバッグを席においたまま、注文をしにカウンターにいったりトイレに立ったりすることができます。

それを外国の人たちや外国に住んだことのある日本人は「日本以外でやったらすぐに盗られてしまうよ!平和ボケだ!」とまるでこちらに非があるかのように言うこともあります。

でも本来は、他人のバッグを盗るほうが悪いのです。それは犯罪だからです。

日本では「人のバッグを盗るほうが悪い」という主張はまだまかり通ります。しかし諸外国では「なに言ってんだ」と思われてしまう。それは「人のバッグを盗るほうが悪いと主張するあいだに盗まれてしまうから」にほかならないでしょう。単純すぎてなにいってんだと思われるかもしれませんが。

ベストなのは席にバッグを置いても盗られない社会になることです。しかし一度でも「バッグを置いておくほうが悪い」という論調が浸透し始めると、そんな平和な社会を取り戻すことは困難です。

私は「バッグをおいて置くほうが悪い」と主張する人は、陣取りゲームに負けた人だと思っています。いったい何の、誰との陣取りゲームなのか――それは「バッグを置いておくほうが悪い」という風潮をどこまで浸透させるかという、盗人側との陣取りゲームです。

バッグを置いていると盗人は盗みます。それにショックを受けつつ、はじめのほうはまだ「盗むなんて何てひどいことするんだろう!」と怒るかもしれない。そして盗難を取り締まるべくなんらかの行動を起こすかもしれません。しかし盗人はそんな抵抗をもろともせず巧みに盗みを繰り返します。すると盗人が捕まらない限り、被害者だけが一方的に損をします。盗みが増えるほど治安は悪くなり、治安が悪くなるほど盗人が捕まる確率は低くなっていく……

そして、ある地点でその人は口にしてしまうのです、「バッグを置いておくのは危機管理が足りない」と。そして犯罪者のために、自分の陣地をひとつ譲ってしまうのです。それは「自分のバッグを置いたままトイレに立っても自分のものだから誰にも盗まれるわけないしそんな自由が自分にはあるべき」という本来当たり前にあるメンタリティです。

こうなるとその人にとって「席に置いてあるバッグを盗む」という行為が「犯罪行為である」という認識がだんだんと薄れていってしまいます。

そんなこといってもしようがないでしょ、と思われるかもしれません。もちろんそうです。私だってパリで席にバッグを置きっぱなしにするなんてことはまずありません。ただ、陣取りゲームはこのようにして日々行われ、やがては一歩も動くことができないほど、気がつけば足場しかなくなってしまうこともあると言いたかったのです。

思い返してみていただきたいのは、

「日本ではいいかもしれないけど、外国でバッグを席に置いてたら一発で盗られるよ。ほんとうに日本は平和だね」

と忠告する人の様子です。どこか誇らしげではありませんか?自分は君よりもっとデンジャーな世界で日常を過ごしているのだよというよく意味のわからない優越感のようなものが透けて見えるときがあります。まるで「女遊びは芸の肥やしですから」と口にする女のようです。でも実際は、彼らは陣取りゲームに負けた結果を世界にさらしているだけなのです。

理想を低く掲げると、手に入るのはもっと低い現実である

かなり強い言葉を使いましたが、私は今回なにも一部の女性たちを貶めたくてこの記事を書いたわけではありません。

そうではなく、誇らしげに「浮気はバレないようにしてくれたらいいの」といってる女性、あなたは「浮気なんてぜったいに許さないし私だけを固く愛してほしい。関係とはそういうものだ」と主張できるくらいの愛と自由と幸福を、自尊心を持って求める権利のあるひとりの人間なんだって、そう思って欲しくて書いたんです。

レディースデイに映画代が安くなるかどうかなんてどうでもいいんです。もっと譲ってはいけない陣地がある。勝たなくてはいけないゲームがあるのです。男でも女でも、貧乏でも金持ちでも、若くても年を取っていても。

ハッピーバレンタインデイ。

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